No.27 葉山町、がけ地防災工事への支援始まる(2023年4月)
【葉山町、がけ地の防災工事への支援、始まる】1.支援の対象となるがけ地/2.支援の対象となる方/3.支援の対象となる工事/4.その他の支援/【参加報告「森林未来会議 2023年 in 葉山」】1.「森林は放っておいてはいけません」/2.「どんな森林にしたいですか?」/3.『葉山町森林整備計画』/(紙版)
葉山町、がけ地の防災工事への支援、始まる
2022年から、葉山町でもがけ崩れ等を防ぐための防災工事(擁壁を設ける等)を支援する制度が始まりました。
がけ崩れの心配されるがけ地の所有者、若しくは、そのがけ地近くにお住まいの方が行うがけ地の防災工事について、その費用の1/2かつ200万円までを町が補助するという制度です。ただ、まだこの制度を使って防災工事をされた方はいらっしゃらないのだそう。(2023年3月時点)
そこで、今号では、この制度の内容を整理しながら紹介します。また、長くがけ地防災工事助成に取り組んでいる逗子市や鎌倉市などの周りの市の制度を参考に、ちょっと提案も。
葉山町のがけ地防災工事への支援は、以下の条件の下で行われます。がけ地の気になる方は是非、そうでない方も、ちょっと、読んでみてください。なお、周辺の市の制度の紹介は、要綱等に明記されている内容をもとに作成しています。
1.支援の対象となるがけ地
どのようながけ地が支援の対象になっているのでしょうか。
🔳葉山町では、以下の条件を満たすがけ地を支援対象にしています。
・自然がけ
・がけの高さ2m以上、角度30度以上
・がけ地の上、若しくは、下に住宅がある、又は、道路に面している
🔳周辺の市では、「自然がけ」とは?——横浜市では、「自然がけ」を「高さ1.5m程度のすそ切り及び崖面に殆ど手を加えずに設置した簡易な工作物」までとし、人工がけと区分しています。
逗子市、鎌倉市、横須賀市、横浜市ともに、がけ崩れが発生した後の復旧工事や拡大防止工事も支援の対象にしています。緊急性の求められる場所だからこそ、支援!
横須賀市では、住宅以外に、風水害時の避難所として指定している町内会館や寺院・神社等、また、病院、福祉施設、幼稚園等が近くにあるがけ地も支援の対象にしています。
その他、横浜市、逗子市では、自然がけだけでなく、がけ崩れの心配される人工がけ(条件あり)も支援の対象にしています。人工がけの崩壊も、わたしたちの身近に存在する怖い危険です。
【人工がけの対象条件】
・人工崖で、工事施工後20年を経過(相当の危険のある場合を除く)(横浜市)
・相当の危険があり、対策工事が必要であると市長が認める人工崖(逗子市)
2.支援の対象となる方
どのような方が支援の対象になっているのでしょうか。
🔳葉山町では(土地所有者の場合)
町内に住んでいる土地所有者を支援対象としています。
🔳周辺の市では(土地所有者の場合) 逗子市、鎌倉市、横須賀市、横浜市はともに、土地所有者の居住地に関係なく、がけ地の防災工事を行う方を支援しています。また、逗子市、横浜市では、営利目的でないことを条件に、法人によるがけ地の防災工事も支援しています。
その他、逗子市等では、がけ地に隣接する土地の所有者も支援の対象としています。がけ地が、土地所有の境界線を含む場合の配慮でしょうか。
🔳葉山町では(家屋所有者の場合) 土地所有者だけでなく、被害を受けるおそれのある場所の家屋所有者(自らが居住)ががけ地の防災工事を行う場合も支援の対象としています。なお、家屋所有者が申請する際には、土地所有者の承諾が必要です。
🔳周辺の市では(家屋所有者の場合) 逗子市等では、土地所有者と同様、がけ地に隣接する土地に居住する方(占有者)ががけ地の防災工事を行う場合も、支援の対象にしています。
3.支援の対象となる工事
🔳葉山町では 支援の対象となる工事内容を特に定めていません.
🔳周辺の市では 逗子市では、助成対象工事として以下の工事を挙げています。工事を考える際の参考に。
コンクリートブロック積工
鉄筋コンクリート擁壁工
無筋コンクリート擁壁工
石積高モルタル吹付工
(急傾斜地崩壊防止工事の基準に見合うもの)
コンクリート吹付工
落石防護柵工
ロックネット工
現場吹付法枠工
4.その他の支援
その他に、横須賀市では防災工事費の貸付資金融資を、また、鎌倉市では防災工事に要する経費借入に対する利子補給金支給を行っています。また、葉山町では、以前から危険木の伐採費を助成しています。がけ地(注1)にある危険木(倒木により住宅に被害を与えるおそれのあるもの)の伐採等に対して、工事費1/2かつ10万円までを補助(注2)する制度で、危険木のある土地の所有者やその土地にお住まいの方等を対象に支援をしています。(危険木の伐採に対して補助金を交付します/葉山町 (hayama.lg.jp))
こちらの制度も上手に活用しながら安全なまちづくりを。
(注1)上記のがけ地の条件は、がけの高さ5m以上、角度30度以上(土砂災害ハザードマップの「急傾斜地の崩壊」レッドゾーン、イエローゾーン内)
(注2)危険木が存する土地1筆につき上記の額を助成
葉山町のがけ地防災工事の支援制度は始まったばかりです。まちの中を安全にしていこうとするみなさんを支援する、自分たちのまちに合った制度にしていきたい。是非、みなさんからもご意見を。
「逗子市防災工事費助成金交付要綱」(昭和62年施行)、「鎌倉市既成宅地等防災工事資金助成条例」(昭和52年制定)、横須賀市「既成宅地工事等助成要綱」(平成15年施行)、横須賀市「既成宅地防災工事等貸付資金融資制度要綱」(平成15年施行)、「横浜市崖地防災対策工事助成金交付要綱」(平成19年制定)、鎌倉市パンフレット「既成宅地等防災工事資金助成制度」、横浜市パンフレット「崖地防災対策工事助成制度—制度のご案内—」参照
参加報告「森林未来会議 2023 in葉山」
2月27日、“みうら半島の森林について考えよう”と「森林未来会議2023in葉山」(葉山の森保全センター主催)が開かれました。森林整備や林業経営、また、これらに関連した法制度等について、葉山町内の森林の現状を交えながら、4人の専門家のみなさんがお話をしてくださいました。
1.“森林(注1)は放っておいてはいけません”
わたしたちの身近にある森林。“自然”だから、人の手は加えずにいたほうがいい・・・これはやっぱり勝手な思い込みのようです。
「森林は放っておいてはいけません」。専門家のみなさんはおっしゃいます。
森林も、全くの“自然”としての営み(がけ崩れももちろんあり!)と、人が求める森林の営みとは異。身近にある森林とわたしたちとがともに生活しやすい形にしていくためには、わたしたちが目的に合わせて手を加えながら、それに答える森林を見守っていく必要があるようです。
2.“どんな森林にしたいですか?”
「まず、森林の前に立って考えてみてください」。森林整備(管理)を行うには、求める森林について具体的イメージ(目標林型)を持つことが大切なのだそうです。
自分なりに考えると——山を覆うたくさんの樹木には、土砂災害が起こらないよう地盤を支えてほしいし、洪水が起こらないように地盤と伴に大量の雨水も受け止めてほしい。温暖化を考えれば積極的に二酸化炭素を吸収してほしいし、春、山のところどころに姿を見せる桜や、秋、様々な色に染まる落葉樹の葉々は見ていて楽しい・・・。
森林は多面的機能を持つといわれています。その様々な機能を、引き出し、組み合わせながら、“こんなだったらいいな”と思える身近な森林の具体的な姿をイメージしてみませんか。 樹木は成長に長い時間がかかります。その樹木の集まる森林だから、具体的イメージは世代を超えて長く共有できるものに。まずは、いつも見ている森林について詳しく知るところから始めませんか。
3.『葉山町森林整備計画』
森林整備は、戦後、国によって様々な政策がとられてきましたが、現在は市町村が中心となって行われているとのこと。葉山町にも『葉山町森林整備計画』という森林整備のマスタープランがあるそうです。
その整備計画を開いてみると——9割方が民有地である町内の森林は、木材生産のために作られた人工林が2割ほどでその他は天然林(注2)。これらの森林は11の区域(林班)に分けられているものの、その整備方針は、全ての区域で“保健文化機能の維持増進”が掲げられています(注3)。また、森林整備(管理)の方法も、全区域で “通常より長い期間(80~100年程度)をもって伐採する”(注4)とされています。
(注1)森林とは、集団的に生育している樹木等と、それらが生育している土地のこと。
(注2)葉山町森林整備計画概要図(土地利用)参照。
(注3)葉山町森林整備計画p.12参照。残念なことに、整備方針として、災害の防止や土壌保全の維持増進を掲げる区域はありませんでした。
(注4)長伐期施業